食文化がもたらすもの

ニュージーランドの冬は寒くて雨が多く本当に憂鬱である。こちらにはイギリスからの移住者が多いが、その多くが「当地は気候が良いから」という意見が圧倒的に多い。私はまだイギリスには行ったことがないが、娘などの話では雨が多く毎日鉛色の空で寒いし、食い物も旨くなくあそこにはとても住みたくないと言う。多くのイギリス人は当地の気候が気に入っていると言うのだから、おそらく相当気象が悪いのだろう。そこへもってきて食べ物が旨くなければ言うことナシだ。
これはオーストラリアやカナダも全く同じで、イギリス文化圏の食い物はまず期待できない。以前にもこのブログで書いたと思うが、白人は有色人種に比べ、味に対する感受性が敏感ではないように思う。

私が25年暮らしたブラジルは人種の坩堝で世界中の人が入り混じっている。その中でも黒人文化が影響してか料理は独特の味付けで、とりわけ様々なハーブ類での味付けは絶品である。元来ポルトガル人によるアフリカからの奴隷輸入に始まるが、ポルトガル料理より奴隷が作るアフリカ料理の方が明らかに旨い。つまり、ご主人様より使用人の方がよっぽど旨いものを食べていたわけだ。大体主人が使わないもの、例えばコーヒー農園などで豚を解体したとき、足先・鼻・耳・顔・しっぽ・内臓・皮脂・生殖器などなどをもらい受けて、彼らなりの味付けによる料理方法で実に美味しい料理を作る。旨いものは誰が食っても旨く感激する。やがて主人たちは、自分たちの料理よりも格段の旨さに魅了され彼らの日常料理に取り入れられて行く、それがブラジル料理として定着する。味付けはどちらかと言うと日本の関西料理に近く薄味が多い。これには最初は少し戸惑うが、慣れてくるとこの薄味が食材それぞれの個性を引き立たせる方法であることに気が付く。
前記したように例えば豚料理であっても、高級とされるロースなどの部位は料理がしやすく無難ではあるが決して旨いものではなく料理方法も実に単純である。一方、使用人たちがもらってくる残り物の部位は様々な旨味成分の宝庫であり、料理方法によってはロースなどの高級肉とは比較にならないほど美味しいものなのだ。しかしそこには、それらの食材の特徴を理解した上で親から子に伝わってきた食文化が存在する。これらのことを考えると、その国や地方によって独特の食文化がありそれを理解することによって異なった民族同士が認め合い、共存共栄の基礎となるだろうし、食文化は実に重要な人類の遺産なのだろうと思う。

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