ニッキの香りと思い出

こうして少年時代の想いをめぐるとキリがない。四季折々、実に色々な事を考え出して遊んだものだった。前回のメジロ取りに使う鳥モチは、近所の駄菓子屋に行けば置いてあったが小遣いの十円でいくらも買えないので自作した。山中を歩き回り ”モチノキ” を探すのだ。
少し時間をかけて探せば見つかるもので、葉っぱが丸みを帯びた何の変哲もない低木の雑木だ。それが本当に ”モチノキ” なのかは経験豊かなガキ大将が鑑定し、その樹皮をナイフでこそげ落とす。ナイフはこの頃の子どもたちの必需品で、折りたたみの切り出しナイフをいつもポケットに忍ばせていた。実に様々なシーンで使い重宝したものだったが、これで鉛筆を削り勉強した覚えはない。
削った ”モチノキ” の皮を丸め、山を下り切るとそこには沢があった。大きくて適当にくぼみんだ石を見つけては樹皮を盛り、こぶし大の石ころで小川の水をかけながら石臼で餅をつくように何回も何回も繰り返しているうちにだんだんと粘度を帯び、ついにはモチが出来上がる。こうした単純作業は子供ながらに飽きることを知っている。そうならないように、モチノキを探すと同時にニッキの木も一緒に物色して、この皮や根を噛みながら作り上げるのだ。ニッキの香りとその甘み、ほろ苦さが大好きだった。
最近は当地ニュージーランドにも多くの外国人が移り住んでいるのか、タイ・ベトナム・マレーシアなどアジア系のレストランが日増しに増えている。たまに家族で外食をするが、こうしたアジア系の料理に使われる香辛料で、シナモンが入った料理が出てくると、その香りが急激に少年時代の思い出をよみがえらせる。シナモンとは日本語でニッキ(肉桂)の事なのだ。

関連記事

もっと見る