”発酵”と”腐敗”はどう違うのか
2019.08.06
前回はブラジルの田舎で作られた干し肉について話した。肉類を干すという事は日本ではあまり知られていない。しかし、日本で普通に食べられている魚の干物の事を考えればそれほど違和感はないように思う。魚・肉類にしてもキーポイントが塩加減であることには間違いない。西洋は塩蔵品として肉が対象である一方で日本は魚や野菜が対象で、基本的にはそんなに変わるものではないように思う。漬物などでも塩加減によっては上手くいかずに腐らせてしまう事さえある。これはひとえに塩分濃度が大きく関係している。上手くいけば発酵で、失敗すれば腐敗である。
では ”発酵” と ”腐敗” は違うのだろうか。両方とも同じである。これはあくまで人間目線で見た判断であり、勝手にこの2つの名前が付いている。人間にとって有益であれば発酵であり益にならないものが腐敗なのだろう。発酵は香りが良くて美味しくそこには毒素などがない安全なものをいう。これには塩分濃度が大きく関係している。先に書いたブラジルの田舎で作られる干し肉はハエが真っ黒にたかっている話をしたが、結局は腐敗せず美味しく食べることができる。このハエだらけの肉には当然有害菌類が付着しているのだが、これらの菌は強い塩分濃度や太陽光線によって増殖できないため、最終的には食品として成り立つのである。だから発酵も腐敗も非常にいい加減であり、あくまで人間が勝手に名付けた抽象的なもので、そこにはそれぞれの地域の食文化の要素も介在して来る。
我が国において身近なものでは納豆やクサヤである。外国人から見れば明らかに腐っているとしか思えない。また逆にクサヤの6倍、世界一臭いと言われるスウェーデン産の “シュールストレミング(塩漬けニシンの缶詰)”、世界二位の韓国 “ホンオフェ(エイの発酵品)” など挙げたらきりがない。日本人ならどう見ても腐っているとしか言いようがないが、そこにはそれぞれの食文化が存在するのである。結局こうした事は全て微生物によって様々な変化が起こり、その結果として旨ければ発酵、不味ければ腐敗といった実にいい加減なものなのである。父が昔よく言っていた「旨いものに汚いものなし」・・・30年前に世を去った父の事を思い出すのである。以前に近くのビーチで40kgほどのアカエイを釣り上げて可食部分のみを持ち帰り、(ホンオフェの作り方も知らないので)蒲鉾やはんぺんなどの練り物に加工して食べたが時間がかかった。まず釣り上げるのが大変だったし、二度とこの魚の殺生はしたくない。
タンパク質はアミノ酸が連なったものであるが、微生物による酵素でタンパク質を構成するアミノ酸の鎖が断ち切られ、旨味成分のアミノ酸が分解されて出てくる。発酵食品はどこの国においてもそれぞれの特産品があり非常に興味深いが、マヌカハニーは糖分濃度が80%以上の完熟生蜂蜜なのでこの中に微生物は生存できない。ちなみに水で薄めると発酵して酒になる。