薬剤耐性遺伝子と未来・3

(前回より続く)しかしこのような作用機序も結局(世代時間が短い)細菌の世代交代が早く、突然変異株の薬剤作用部位に対する構造変化など一種の進化によって、或いは、接合(高等生物の有性生殖に当たる遺伝情報の伝達)による形質転換やバクテリオファジーによる形質導入(細菌に感染するウイルス、バクテリオファジーによって他の細菌間への遺伝因子の転移)などによる種を超越した細菌間の遺伝子伝播(早い伝播速度)や組み換えによって、抗生物質の毒性を感知しない細菌が必ず出現してしまうことになる。
これは薬物耐性菌といわれる。例えばペニシリン系やセフェム系(対ペニシリン耐性菌への改良薬)に対する抗菌薬で、上述の細胞壁阻害薬(βラクタム系)については、この薬剤に接した細菌の一部がβラクタマーゼという酵素を産生し、抗生物質の薬物成分が作用部位のPBPに結合しないように変身(進化)をして対抗してくる。その他の作用機序が違う上述の抗菌薬でも、細菌の酵素産生や作用部位の変化(細胞膜透過性の変化により薬剤が作用点に到達できない)など同じことがいえる。結局、こうした人工の殺・静菌剤(増殖を抑える)は多剤耐性菌を生み出してしまうという見方より、薬物投与することによって、そうしたストレス下でも生存できる細菌を選択してしまうということに問題があるようだ。
因みに一説によると病原性大腸菌O-157は、赤痢菌が持つベロ毒素がバクテリオファジーによって大腸菌に形質導入されたとしている。

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