抗菌薬が描く未来

2017.10.31

養蜂雑誌を見ていたら、アメリカ蛆腐(ふそ)病に関する記事があった。以前も話したように、養蜂に対しニュージーランドでは、アメリカ蛆腐病などのミツバチの疾患に抗生剤・抗生物質などの抗菌薬類は厳しく使用禁止している数少ない国の一つだ。この事については何度も触れたが、私はこの国のやっていることは正しいと思う。薬剤などを常に使っていると菌やウイルス、或いは癌細胞がその作用機序(メカニズム)を見破ってしまい、薬剤に対抗する病原体や癌細胞が出現することになってしまう。これらの薬に対抗できた残党やその子孫は、もう同じ薬剤が奏功しなくなってしまう。つまり薬剤耐性遺伝子をコードしていることになる。
薬剤耐性菌やウイルス・耐性癌細胞がそれであり、抗生物質が発見された1940年代、人類は感染症との戦いに勝利したかのような勘違いをしたのだが、今や抗菌薬が奏功しないこの類の病原体は、どこの医療機関でも普通に寄生している。院内感染菌というヤツだ。
困ったことに、或る種の抗菌薬に耐性を獲得すると他の薬にも耐性を獲得し易くなり、この事は交差耐性と呼ばれている。この国が、アメリカ蛆腐病について抗生剤・抗生物質を使ってはならない事に私は大いに賛成しているが、結局、ミツバチの感染症に対する薬剤耐性構造ができてしまう事で、薬剤成分が蜂産品を通じて人体に取り込まれてしまうことにもなりかねない。
このように抗菌薬が他の農・畜産業でも普通に使われているのが現状だが、これによって高度薬剤耐性菌が生まれ抗菌薬の奏功が期待できなくなる。とりわけ抗菌薬の存在を前提とした各種手術などは大きな問題となる。

つい最近、私は右腕に大きな斑点ができたので皮膚癌を心配して切除し、11針を縫った。その際医者からβラクタム系(ペニシリン系)で、薬剤耐性菌に対応したβ-ラクタマーゼ阻害剤配合の抗菌薬を飲むように処方箋が出された。要は手術後の感染症対策だが、結局これは利用しなかった。私は天然の活性物質を生産・提供している以上、余程の事がない限りそれは信条としてできないのである。また永年にわたる多くの顧客様からのご報告で、如何に抗菌剤が健康維持を阻害しているかもよく知っている。結局、抜糸の時に担当医に「職業柄、天然の活性物質を毎日食べているので薬は使わなかった」と正直に詳しく話したら、懇意な医師だったので何とか理解はしてもらえた。勿論、術後の経過は順調できれいに治ったし、病理検査結果は皮膚癌NGだった。このとき薬剤を投与したら、恐らく腸内フローラ(腸内の微生物生態系)がデタラメになってしまい、下痢などの症状を起こしたであろう。

製薬会社が新しい薬を作れば、またそれに対抗する菌類が出現してしまう。今までその繰り返し、つまり “いたちごっこ” をして来たわけだ。製薬会社の目線ではありがたいことで、薬屋はいつの時代でも安泰である。しかしこのような耐性菌との戦いには限界があり、結局、菌類の方が勝ってしまうのではと恐れられている。
こうして、抗生物質などの抗菌薬によって選択されてしまった薬剤耐性菌の増加もさることながら、最大の問題は薬剤耐性菌の持つ遺伝子の拡散によって、広域な菌類が菌種の域を超越し薬剤耐性遺伝子として伝播する事にあり、増えているのは耐性菌そのものよりも耐性遺伝子自体で、菌類は単なるその遺伝子の担体(運び屋)に過ぎないという現実だと言われている。
また癌細胞には薬剤が奏功しない、薬剤耐性癌細胞の出現も大きな問題だ。これらはあまりにも安易な薬剤の乱用(含、農・畜産業)によることが原因とされる。すべてといってもよい手術は、抗菌薬の存在が前提で成り立っているので、この問題は極めて重要だと思う。抗生物質は今や中国など多くの国で肥料にまで混入されていると言われている。特に畜産業界でも、既に高度薬剤耐性菌が出現しアウトブレイク事例が見られ、これらの耐性遺伝子が人間の常在菌叢(じょうざいきんそう)にまで達することを考えると末怖ろしい事である。

アメリカ蛆腐病の話に戻るが、この病気は絶滅が不可能で、この病気の菌は生存環境が悪くなると胞子を作って30年以上も生き延びると言われている。抗菌薬に対する薬剤耐性菌や人体への影響なども合わせ考えると、やはりアメリカ蛆腐病に感染した群れは、即刻焼却処分が最も良いと思う。私のところでは1シーズン使った巣箱は病気予防の為、大型のガスバーナーで焼き消毒をしているが、3年以上経った巣箱は全部焼却処分をしている。
日本で売られている外国産の蜂蜜は、輸入時に抗生剤・抗生物質の検査(一部の薬剤に限られるが)が義務付けられているから、薬剤使用が野放し状態の日本産と比べて安全であると言う一説もある。結局、養蜂家に最も恐れられているアメリカ蛆腐病であるが、この病気の防御は、多くの国々がやっている薬剤の使用を以っても不可能である限り、この感染症はむしろミツバチの常在菌(常在菌ではないが)という位置づけが重要であり、常に自己免疫応答力強化を心掛けるしかなく、それにはミツバチの健康を如何に第一に考えるかが大きなテーマとなる。これらの考え方になったのは、ありがたいことに製品をご愛用頂いている顧客様からのアドバイスが基となっている。(顧客様は神様なのである。)

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