薬剤耐性菌(AMR)について・前編

2020.01.21

昨日、日本の本社スタッフより薬剤耐性菌(AMR)についてのニュースが送られてきた。それは「内閣官房が今朝の日経新聞で、薬剤耐性についての政府広告を出しています。庶民に直接訴求する、このような広告は(今まであったのかもしれませんが)初めて見かけました。そういう時代が来たということなのでしょうか。」との情報だ。送られてきた政府広報オンラインを開いてみると、抗菌薬の極めて初歩的な案内が書かれていた。これを見て、何をいまさら寝とぼけたことを言っているのか!と腹が立ってくる。こんなことは小学校の時から基本的な教育として国民全体が常識として知っておかなければならないことで、それは国民の義務でなくてはならないことだ。政府は今までこの問題につき何をやってきたのかと開いた口が塞がらないとはこのことなのである。更に言えばもうこの問題は手遅れ状態で、現在の医療、特に感染症については将来が全く暗礁に乗り上げてしまっているとしか言えないのであり、それほど対応が遅れてしまっている。

人類は抗生物質の発明によって感染症を克服したとまで思われた時代があった。ペニシリンの発見であり、やがてはそれが幻であることを認識せざるを得なくなる。ペニシリンの作用機序(ここでは殺菌、静菌のメカニズム)は、多くの菌は細胞壁と呼ばれる丈夫な殻で細胞内部の圧力を維持して生きている。この細胞壁を作る上で重要な酵素が必要となる。それは圧に堪えれるだけの構造物を作らなければならない。細胞壁は、ペプチドグリカンという2種類のアミノ酸が交互に結合したポリマーが、ペプチド鎖で結ばれた網目構造から出来ている。この網目を作る酵素は架橋酵素と呼ばれる。ペニシリンは、この酵素と非常によく似た構造をもっているため細菌がこれを利用するが、架橋酵素とは似て非なるもので正常な網目構造からなる細胞壁を作ることが出来ない。このため圧力を維持できず溶菌という現象が起き死んでしまう。これは桶や樽に例えれば、タガが外れた状態に似ている。以上はペニシリンを代表とするβラクタム系抗菌薬、つまり細胞壁を持つ細菌への抗菌薬でありこのほかにまだ菌種による様々な作用機序の抗生剤・抗生物質がある。(続く)

関連記事

もっと見る