肺炎と抗生剤・その1

前回まで天然の抗菌物質について話してきたが、そうかと言って私は決して薬剤を否定するものではない。とりわけ救急、救命には必要不可欠なものである事は言うまでもない。
もう何十年も昔の話になってしまうが、ブラジルに暮らしていたころ長女(当時6歳)に原因不明の微熱が続き、近所の医院に連れて行った。レントゲン写真を撮ったところ肺炎と診断された。すぐに抗菌薬のお世話になった。今でもその薬の名前はよく覚えている。ケフレックスと呼ばれる薬剤だ。後で分かったことだが、この薬は先に書いたようにβラクタム骨格を修飾した半合成のセファロスポリン系、つまりセフェム系抗菌薬で米国イーライリリー社によって開発されたセフェム系第一世代の薬剤だった。先のブログと重複するが、この薬剤はペニシリンでは奏効しないグラム陰性菌の一部にも効く薬で、娘を担当した医師はこの薬剤の投与を続けた。しかし娘の状態は一向に良くならず、顔色どころか爪の色が紫に近いチアノーゼの状態で本当に見るのも辛いほどであった。6歳の幼い娘は、もうこんな苦しいのは嫌だと泣き訴える。呼吸器がやられているのでガス交換がうまく行かずに酸欠状態が続いたのだろう。このときのことを思い出すと今でも親として力が無かったことへの自己嫌悪に陥る。
肺炎は恐ろしい病気で、こうして最愛の家族を簡単に亡くしてしまうことが多い。何とかしなくては、ただ医療機関や医師に頼っているだけでは親としての責任放棄であり毎日が本当に辛く不安だった。偶然(幸運にも)私の会社のスタッフで、長女と全く同じような症状の女の子がブラジル語でエリトロミシーナ(英名エリスロマイシン)と呼ばれる薬を服用し完治した話を聞いた。すぐにその薬を薬局で入手し、当時のブラジルは抗生剤・抗生物質の類でも医師の処方箋は不要であったのでこの薬剤を飲ませた途端に、まるで嘘のように症状が改善していった。このとき私は、己の無知を大きく恥じ、以後外国に暮らす親の義務として、独学で薬剤の知識獲得に打ち込むようになった。これはある意味で長女に不要な苦しみを与えてしまった私の懺悔の念でもあった。(続く)

関連記事

もっと見る